S.T.A.L.K.E.R. 奇跡のゲーム!

2019.08.10

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S.T.A.L.K.E.R.というFPSゲームがあります。

 

読みは「ストーカー」ですが、
「あの」ストーカーとは全く関係ありません。

 

ウクライナ製のゲームですが、
S.T.A.L.K.E.R.出現以前は、ウクライナ
はゲーム小国で世界的に知られたゲーム
はほとんどありませんでした。

 

しかし、S.T.A.L.K.E.R.発売後には、
Metro 2033とか、You are Empty、Cryostasis
のような異色作が続々と発売され、ウクラ
イナに異色ゲームあり!と言われるようになったのです。

 

それも全てS.T.A.L.K.E.R.の成功によるものです。

 

S.T.A.L.K.E.R.の第1作Shadow of Chernobyl
(SOC)は、アメリカで100万本、アメリカ
以外で100万本、合計200万本以上の売上
げを記録し、東欧で最初にして最大の
ヒット作となりました。

 

私は、S.T.A.L.K.E.R.のことを
「奇跡のゲーム」と呼んでいます。

 

今回の記事は、なぜS.T.A.L.K.E.R.は
奇跡のゲームなのか、そのあたりを紹
介するのが目的です。

 

S.T.A.L.K.E.R.とはどんなゲーム?

ではS.T.A.L.K.E.R.とはどんなゲームなのか、
そこからみてみましょう。

 

S.T.A.L.K.E.R.はジャンルとしては、
FPS(ファースト・パースン・シューティング)
ゲームとされています。

 

主人公の目線でみた、一人称視点の
シューティングゲームということになります。

 

FPSとは別にTPSというものもあります。

 

これはサード・パースン・シューティン
グの略で、第三者視点のシューティング
ゲームですが、視点の違い以外はFPSとほぼ同じものです。

 

尚、今回は描画方式はポリゴンによるFPSに限定しています。

 



シューティングゲームで有名な作品には、
コールオブデューティ、HALO、DOOM、
BioShock、halfLife、バトルフィールドなど多数あります。

 

制作国はアメリカが大半で、たまに
西欧の製品もあるという程度でした。

 

そこへ割って入ったのが、2007年発売の
「S.T.A.L.K.E.R.Shadow of Chernobyl」です。

 

これは当時としては珍しい東欧はウクラ
イナ製ゲームで、制作会社はGSCという
無名(当時は)の会社でした。

 

S.T.A.L.K.E.R.登場以前のFPSは、能天
気型というか、要するに撃って撃って撃
ちまくるというもので、爽快に撃ちま
くって、「ハイ、これで終わり」というものでした。

 

勿論例外もありますが、大半はそんなスタイルのものだったのです。

 

S.T.A.L.K.E.R.がそんなFPSの世界に衝撃
を与えたのは、そのリアルな設定やスタ
イル、悲壮感や無常感、そして荒廃の美などの世界観です。

 

S.T.A.L.K.E.R.では持ち歩ける重量が決
まっていて、それ以上持つと動けなくなります。

 

食糧や水、医薬品も設定されていますし、
睡眠を取らないと倒れてしまいます。

 

武器や弾薬を含めて、主人公(プレイヤー)
はそれらの一切を背負い、自分の脚
で歩かなければならないのです。

 

S.T.A.L.K.E.R.がストイックなゲーム
言われるのも、そのあたりの設定からでしょうね。

 

ここでストーカーという言葉について一言。

 

このゲーム及び小説ストーカー、映画の
ストーカーでは、ストーカーとはある
目的と能力を持った特異な存在を指します。

 

日本でいう「つきまとい」の類の意味は
全くありません。

 

「S.T.A.L.K.E.R.Shadow of Chernobyl」
は、亡骸運搬トラックが雷に打たれて横
転し、そこから一人の亡骸が道路際に投
げ出される、というシーンから始まります。

 

その亡骸は、近くにあるストーカーキャ
ンプに運びこまれますが、不思議なこと
に彼は蘇生してしまいます。

 

しかし、彼は一切の記憶を失っていて、
覚えているのは「Strelokを倒せ」という
言葉のみ・・・

そして、腕には「S.T.A.L.K.E.R.」のタトゥーが・・・

その後主人公は自分探しの旅に出るので
すが、途中前の仲間達にも巡り会い、
少しずつ記憶を取り戻して行きます。

 

やがて、「ゾーン」と呼ばれているこの
世界の最深部、Chernobyl原発の原子炉建
屋「石棺」に到達した主人公は、そこで
ある超越的な存在と出会い、エンディングとなります。

 

このエンディングには数種ありますが、
リアルエンドでもめでたしめでたしと
いう感はあまりありません。

 

なにがしかの虚無感と絶望感の中で、ゲームは終了するのです。

 

このあたりは、アメリカ製FPSの明解
明瞭なエンディングとはまるで違いますね。

 

実は、S.T.A.L.K.E.R.には、前設定があります。

 

1988年にウクライナのチェルノブイリで、
大規模な原発事故が起きました。

 

ここまでは史実とおなじです。

 

しかし、その後数年して、原発事故と同
規模、あるいは更に大規模な災害が起き
たのですが、これはゲームでのフィクションです。

 

これにより、原発事故で荒廃したチェル
ノブイリ周辺は更に荒廃の度を増し、
その一帯は立ち入り禁止となりました。

 

そしてその一帯は「ゾーン」と呼ばれ
るようになったのです。

 

しかし、ストーカーと呼ばれる男達は、
その立ち入り禁止令を無視してゾーン
内に入り込み、住みつくようになっていました。

 

というのが、暗黙の前設定となっています。

 

このS.T.A.L.K.E.R.の登場は、東欧に与
えた衝撃は非常に大きいものがあり、
それまでゲームの世界では鳴かず飛ば
ずの東欧ゲーム界は、それ以後続々と
異色作、意欲作を発表するようになりました。

 

これはS.T.A.L.K.E.R.の大きな功績と言えるでしょう。

 

東日本大震災が起きた当時、私は
S.T.A.L.K.E.R.をプレーしていて、
原発建屋のシーンをやっていました。

 

その時驚いたことは、福島原発の内部
の映像は、プレーしていたS.T.A.L.K.E.R.
Chernobyl原発とよく似ていたことです。

 

福島は沸騰水型、Chernobylは黒鉛型と
タイプは違うのに、画像を見た印象は
「似ているなあ!」というものでした。

 

このあたりは、GSCはS.T.A.L.K.E.R.
制作に当たって、非常に綿密に
チェルノブイリ周辺や原発を調査したためでしょうね。

 

そのため、映像はリアルそのものなのです。

 

尚、S.T.A.L.K.E.R.にはShadow of
Chernobyl発売の後、
第2作「Clear Sky」、第3作「Call of Pripyat」
が発売されています。

 

今の所、この3作がS.T.A.L.K.E.R.シリー
ズの全てなのですが、Clear SkyとCall
of Pripyatは完全な新作というより、
ほとんどDLCに近いものです。

 

内容的な進展は全く無く、Clear Skyは
前日談、Call of Pripyatは後日談の一
つのエピソードというものです。

 

そのため、S.T.A.L.K.E.R.のファン達は、
長年新作の発表を心待ちにしていたので
すが、制作元のGSCは種々のゴタゴタが
あり、もう新作は永遠に出ないのだろう
と、諦めていたのです。

 

しかし、いかなるMonolith様のお告げな
のか、ついに
「S.T.A.L.K.E.R.2」の発売が予告されました。

 

「一応」リリースは2022年予定とのことですが、
これまでの経緯などから考えて、これは全く
あてになりません。

 

もしかしたら、2022年から制作が始まるかもしれない、
程度に受け取っておいた方が、
がっかりしないで済みそうですね。

 



ストルガツキーとタルコフスキーそしてゲーム

S.T.A.L.K.E.R.には直接の原作はありません。

 

しかし、ストルガツキー兄弟の小説
「ストーカー(原題:路傍のピクニック)と、
アンドレイ・タルコフスキーの映画
「ストーカー(原題:願望機)には、大きな影響を受けています。

 

「ストーカー」、「アノマリー」、
「アーティファクト」、「ゾーン」など
のシンボリックな用語は、
全て小説ストーカーから継承されたものです。

 

A&Bストルガツキー兄弟は、兄のアルカジイ
は日本語学者で、安部公房の傑作
「第四間氷期」のロシア語訳を行なっています。

 

弟のポリスは天文学者兼コンピュータ技
術者で、小説の元アイデアはボリスが提
供し、実際の執筆はアルカジイが行っていたと言われています。

 

小説ストーカーの内容は、ある時アメリ
カとカナダの国境附近で大異変が起きたのです。

 

付近一帯の殆どの生物は落命し、
ごく僅かな例外者のみが生き残ります。

 

その人達は、ゾーンと呼ばれるこの大異
変の地でも、生きながらえる特殊な能力
を持つようになったからです。

 

この例外者が後にストーカーと呼ばれる
ようになるのです。

 

原題の「路傍のピクニック」とは、
以下のような由来があります。

 

村の青年達がピクニックに出かけました。

 

彼らは路傍で食事をし、道端にゴミを捨てていきます。

 

青年達が立ち去った後、虫たちが集まり、ゴミにたかります。

 

虫にとっては見たこともない、大変なご馳走なのです。

 

しかし、そのご馳走には危険が隣り合わせです。

 

足を滑らせれば、缶の鋭い切れ目ですっ
ぱりと虫は両断されてしまいます。

 

袋のねばねばに触れれば、そのまま張り付
いてしまい、身動きが取れなくなります。

 

しかし、捨てていった人間たちにとっては、
そんなことは気にも止めない些少事なのです。

 

つまり、虫=人間、人間=超越的な知性を
持ったエイリアン、という寓意ですね。

 

その大異変とは、偶然地球を訪れた超越的な知性を
持ったエイリアンによって引き起こされたものだったのです。

 

この超越的な知性を持つ異星人と、人類と
の出会いは、SFでは屡々テーマにされています。

 

その代表的な作品は、アーサー・クラーク
の名作「幼年時代の終わり」と、
「2001年宇宙のオデッセイ」です。

 

その2作とストルガツキー兄弟の
「ストーカー」は、SFの最高傑作と常々考えています。

 

映画「ストーカー」は、原題「願望機」で、
巨匠アンドレイ・タルコフスキーの作です。

 

こちらは小説とは違い、超越的知性は表
面に出ず、むしろ宗教的な贖罪と救済が
テーマになっています。

 

映画は3部構成になっていて、第1部と
第3部の主人公のストーカーが住む村、
第2部が大異変のあったゾーンとなっています。

 

興味深いのは、村はモノクロで、
ゾーンはカラーとなっていることで、
これにも象徴的な意味があるようです。

 

ストーカーには知的障害を持つ娘がいて、
彼はいつも娘の回復を祈っているのです。

 

ある日、ストーカーは客をガイドして
ゾーンに不法侵入します。

 

そして願望機と呼ばれる願いを叶える
機械がある所迄到達するのですが、
科学者と作家の客は、自分達はこれで
満足したから、君だけ入りたまえと言います。

 

ストーカーが何を願ったのかは、ここに
書くまでもありませんね。

 

そして第3部の村です。

 

画面は突然カラーに変わります。

 

村では唯一のカラーのシーンです。

 

深夜娘は水の入ったコップをじっと見つめます。

 

と・・・

 

コップは静かに宙に浮き、そのまま滑って
行って床に落ちます。

 

ストーカーの願いは叶えられたのです。

 

ストーカーが願った内容とは違いますが・・・

 

というもので、村=現実ではなく、ゾーン
こそ現実であり、実は虚、虚は実という、
言いようのない感動に襲われます。

 

このタルコフスキーの映画も、映画史上に残る大名作です。

 

ストーカーの小説も映画も、そしてゲームも、
歴史に残る大名作というのは、
奇跡でなくてなんなのでしょうか?

 



結び

S.T.A.L.K.E.R.がFPSの世界に衝撃
を与えたのは、そのリアルな設定やスタ
イル、悲壮感や無常感、そして荒廃の美などの世界観です。

 

S.T.A.L.K.E.R.では持ち歩ける重量が決
まっていて、それ以上持つと動けなくなります。

 

食糧や水、医薬品も設定されていますし、
睡眠を取らないと倒れてしまいます。

 

武器や弾薬を含めて、主人公(プレイヤー)
はそれらの一切を背負い、自分の脚
で歩かなければならないのです。

 

これらのリアルでストイックな設定が、
それまでのおおまかなアメリカ製FPSと
はひと味違う雰囲気の元になっています。

 

S.T.A.L.K.E.R.には原作はありません。

 

しかし、ストルガツキー兄弟の小説
「ストーカー(原題:路傍のピクニック)と、
アンドレイ・タルコフスキーの映画
「ストーカー(原題:願望機)には、大きな影響を受けています。

 

この小説も映画も史上に残る大傑作です。

 

ストーカーの小説も映画も、そしてゲームも、
歴史に残る大名作というのは、
奇跡でなくてなんなのでしょうか?

 



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「捨て子のサウルス」です。 気張らず無理せず気ままに書き散らすつもりですので、お気軽に読んでくださいね。

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