田中芳樹のアルスラーン戦記は結末がひどい!?ネタバレあり!
田中芳樹という作家は、
大長編の大作が多いですね。
出世作の銀河英雄伝説を始め、タイタニア、
マヴァール年代記、創竜伝、野望円舞曲
(これは原案のみ)など、いずれも10巻を越す大長編ばかりです。
今回のテーマである「アルスラーン戦記」も、
全16巻という巨篇なのです。
しかも田中芳樹の小説は、物語が長いだけ
でなく、執筆の期間も非常に長期にわたります。
このアルスラーン戦記も、1986年から
2017年ということで、30年がかり3なのです。
そして多彩な登場人物と波瀾万丈のストー
リー、華麗な描写(くさくてウザイという
人も多いけど)で、読者を魅了しました。
しかし、その最終刊「天涯無限」は、
結末が「ひどい」とか「最悪」とか、
「つまらん」という悪評もまた多いのです。
では、アルスラーン戦記の結末は、本当に
ひどい出来なのでしょうか?
今回、改めて初刊から読み直した(これで
何読になるのか)、率直な感想をネタバレを
交えて紹介しましょう。
田中芳樹のアルスラーン戦記は結末が・・・
結末を語る前に、一通りアルスラーン戦記
の世界を紹介いたしましょう。
アルスラーン戦記の世界
田中芳樹の小説家としての第一歩は、
1977年の幻影城新人賞受賞からスタートします。
1982年には出世作「銀河英雄伝説」
(略称銀英伝)を刊行し、一躍人気作家となりました。
その直後から新作西洋チャンバラ小説を構想、
1986年に第1巻を刊行します。
中世ペルシャの伝説や神話をネタとし、
少年アルスラーンが王となってゆく過程
を、西洋剣豪達の派手なチャンバラを交えて書いています。
それが「アルスラーン戦記」なのです。
田中芳樹の資質や嗜好から見ても、テク
ノロジー全開の宇宙ものよりも、地球の
歴史に芽生えたアルスラーン戦記や
マヴァール年代記の方が、合っていたと思います。
元々田中芳樹は中世や古代の歴史を下敷
きにして書く、と言われています。
銀河英雄伝説は中国の三国志宇宙版、
マヴァール年代記は中世のハンガリーな
どの東欧圏、そしてアルスラーン戦記は
中世ペルシャがその下敷きです。
現在、イランとアメリカの間がきな臭く
なり、ペルシャ湾では緊張が続いています。
欧米諸国、とくにアメリカはイスラム圏
とは対立が続いていますが、
日本とイランは友好的な関係なのです。
その友好的関係は、日本がイランの石油
を必要としているから、ということもあります。
しかし、それ以外の意外な所にも、
由来しているかも知れませんよ。
聖徳太子はイラン系だった!
のです。
聖徳太子の母親はペルシャ人だったのです。
聖徳太子の母親は、穴穂部間人皇女(あなほべ
のはしひとのひめみこ)と言う人です。
この間は「はし」と読みます。
「はし」は漢字では「波斯」と書くのです。
「波斯」の読みは「ペルシャ」です。
なので、
聖徳太子の母親はペルシャ人だった
となります。
以上 Q.E.D.
実は、この聖徳太子ペルシャ系人説は、
いわゆる「トンデモ説」の一つです。
トンデモ説とは、と学会が全力を挙げて
普及に努めている、世界の真理を語る説
のことをいいます。
尚、上記の「と学会」の説明も、トンデモ
説の一つです。
話が脱線してしまいましたが、アルスラーン
戦記とその結末に戻ります。
アルスラーン戦記とその結末とは?(ネタバレあり注意!)
時は中世、恐らくは10世紀から13世紀に
かけてかと思われます。
所はユーラシア大陸の東端近く、現在
のイランと想定されています。
パルスと呼ばれる国は武力文化の両面で、
その地域随一の大国でした。
しかし、ある時西からの侵略者が現れたのです。
その名はルシタニア。
小説内では現在のどこの国とも比定され
ていませんが、恐らくはスぺインあたり
ではないかと、私は推測しています。
ルシタニアは狂信的な宗教国家でもあり、
異種族やその信ずる宗教などを、徹底的に
排除しています。
このあたりは十字軍ということになりま
すが、実際にその時代は十字軍の最盛期
でした。
現実の十字軍も随分ひどい蛮行をやって
いたようですが、進歩的文化人の誉れ高
き田中芳樹がそれを見逃す筈がありません。
小説内でのルシタニアは、完全な悪玉扱
いで、ボロクソにけなされています。
大国パルスの王太子であるアルスラーン
も、その迎撃戦に参加するのですが、
不敗を誇るパルス軍は壊滅してしまいます。
そして首都も陥落、パルスは滅亡し、
アルスラーンは僅かな手兵と流浪の旅に
出る、というのが、物語の発端部分です。
その後のアルスラーンは、様々な冒険の
後、パルスを復興して王位に就きます。
ここでアルスラーン戦記の重要モチーフ
を幾つか挙げますと、一つはパルスの王
権、もう一つは諸国との闘い、さらには
蛇王ザッハークの存在などがあります。
特に蛇王ザッハークは、イランの神話で
英雄叙事詩の「シャー・ナーメ」(王の書)
にも登場し、物語の終盤では重要な役割を担っています。
アルスラーン戦記は第一部と第二部に分けられます。
第一部は執筆時期が1986年から1990年頃
にかけて、巻数で言えば1巻から7巻あた
りまで、第二部は1991年から2017年、8巻
から16巻となっています。
第一部は、主としてパルスの王権及び周
辺の国々との争いがメインで、第二部で
はザッハークの蠢動とそれを巡る闘い
が主軸になっています。
第一部で王位に就いたアルスラーンです
が、第二部では新たな外敵も出現し、
蛇王ザッハークの動きも活発になってきます。
そして終幕近く、アルスラーンたちは周
囲を敵に囲まれて四面楚歌、次第に追い
詰められていきます。
この先注意!!! ネタバレあり!
アルスラーンとザッハークの闘いに前後
して、ナルサス、ダリューン、キシュワード
ら、主だった武将もことごとく倒れ、
パルスは滅亡します。
辛うじて生き残った侍童エラムらは、
隣国シンドゥラに亡命したのです。
そして数十年が経過し、エラムも老齢
となった頃、ついに宝剣ルクナバード
を抜くことが出来る人物が現れました。
それはキシュワードの孫であり、満足
したエラムは目を閉じます。
と・・・
彼の目の前には十数騎の騎馬武者が現れたのです。
それはエラムが数十年の間片時も忘れる
ことがなかった懐かしい
アルスラーンらの一行でした。
しかもその姿は、いずれも若い頃のまま
で、そしてエラム自身もいつの間にか
十代の少年に戻っていたのです。
こうしてアルスラーンの一行は、
砂漠の果て、天の果てへと旅だって行ったのです。
翌朝、エラムにパルス奪還の知らせを持っ
てきた人々は、エラムがいなくなっている
ことに気がつきました。
その足跡は途中で騎馬の足跡と交わり、
そこで消えていたのです・・・
というのが、アルスラーン戦記の結末です。
田中芳樹の悪しき特徴として、物語の執
筆が長期にわたると、次第にその作品に
は興味が薄れていき、投げ出してしまう、というものがあります。
最後の方は投げやりとなり、「まぁ、
てきとーで良いか」的なエンディングに
なってしまいがちなのです。
アルスラーン戦記もその例に漏れません。
流石に最後の数ページ、エラムとアルス
ラーンの再邂逅のシーンは力が籠もって
いて読みごたえがあります。
しかし、その前のヒルメス・ギスカール・
ザッハークとの件は、かなり駆け足で
いい加減、評価が悪いのも当然でしょうね。
田中芳樹と栗本薫の類似性
このアルスラーン戦記の第一部と第二部
では、第二部はがっくりと面白さが落ち
るという評が多いのです。
ここで思い出すのは、栗本薫です。
代表作グインサーガでも半分過ぎから
中味は壊滅状態なのです。
一章丸ごとが1人の人間のセリフとか、お
話の本筋とはまるで関係ないストーリー
が延々と続くなど、
普通の作家には真似が出来ない神技を駆使しています。
そういえば、田中芳樹と栗本薫は同年の生まれなのですね。
齡が同じだから傾向も同じということは
ないでしょうが、似ていることは確かです。
田中芳樹の場合には、一つの作品が長く
なって時間が経過すると、
飽きてしまって興味を失うという悪癖があります。
で、どうなるかと言いますと、
テキトーに終わらせてしまうのです。
それが、このアルスラーン戦記には、
特に顕著に表れています。
やはり小説家とは、「嘘をつくのが仕事の人」なんですね。
結び
田中芳樹の大作アルスラーン戦記は、
刊行が1986年から2017年と30年がかり
の巨篇です。
途中5.6年以上もの長い中断期があり、
その都度ファンはまだかまだかとやき
もきしていました。
それが最終刊「天涯無限」をもって完成
となったのは大賀の至りであります。
しかし、残念ながらご本人も途中で飽き
てしまったのか、最終刊の内容はあまり
芳しくなく、不評の嵐でした。
大シリーズが後半でガックリ落ちるとい
うのは、栗本薫も同じですが、こういう
所はあまり似ない方がよいです。
ファンが泣きますからね。
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