田中芳樹の銀河英雄伝説・その魅力と読みどころ

2019.07.21

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遙かな未来、人類はその足跡を銀河系の
大部分に迄広げていました。

 

その世界の大半は「銀河帝国」の支配下
にあり、ただ一人の皇帝による独裁政治
が行われていたのです。

 

それに対抗する勢力は、ただひとつのみ・・・

と書けばもうおわかりかと思いますが、
今回のテーマは
「銀河英雄伝説」の世界です。

 

田中芳樹の出世作であり、この銀英伝の
刊行以前は無名に近い存在だった作者は、
一躍ラノベ界最大のスターにのしあがったのです。

 

その後はアルスラーン戦記、マヴァール
年代記、タイタニアと、続けざまにヒッ
ト作を連発、多くの読者を魅了し続けています。

 

今回は、銀河英雄伝説の魅力の源を探り、
読みどころを交えながら、紹介していきます!

 

田中芳樹の銀河英雄伝説とは?

まずは銀河英雄伝説とその世界をざっく
りと紹介しましょう。

 

銀河英雄伝説の原型は、
「銀河のチェス・ゲーム」という未刊の小説です。

 

この小説は出版元の幻影城が倒産のため、
そのままお蔵入りとなったのですが、
後に徳間書店の担当編集者が、それに注目しました。

 

そして、その序盤部分を拡大して一冊に
纏めるよう勧め、田中芳樹はその案に
沿って書き進めたのです。

 

こうして、1982年11月に徳間書店の
トクマ・ノベルズから
「銀河英雄伝説」として刊行されました。

 

これが後に「黎明篇」になるわけです。

 

発売当初はあまり話題にならなかったの
ですが、2巻3巻と進む内に爆発的な人気となりました。

 

2018年に第10巻が刊行された時点では、
日本のラノベ最高の傑作と迄言われる
ようになったのです。

 



 

銀河英雄伝説の世界

銀河英雄伝説の世界は、現代より
数万年の未来で、人類は銀河系の
大半に進出し、銀河帝国を築いています。

 

これに対抗する勢力として、帝国に反対
する人々が築いた「自由惑星同盟」があ
り、銀河帝国との間で抗争が続いているのです。

 

その間には、フェザーンという自治領が
あり、緩衝地帯でもあり、且つ獲得の
目的ともなっています。

 

こう書くと、宇宙ものアニメのように
華々しい新兵器、新技術が煌びやかに
展開し、記述されていくように思えます。

 

しかし、原作ではこのような
テクノロジー面の描写はごくあっさり
したもので、それが主軸ではありません。

 

内容的には、国や人の駆け引きが主で、
その間を銀河帝国と自由惑星同盟の闘い
で繋いでゆくというスタイルになっています。

 

ここで最初のネタバレですが、
銀河英雄伝説の元ネタは、「三国志」
です。

 

これはよく知られていることなので、
「ネタバレ」という程のものでもないのですが・・・

一口に「三国志」と言っても、史書の
「三国志」と小説の「三国志演義」が
ありますが、一般的に知られているのは、
「三国志演義」の方です。

 

この記事でも、単に「三国志」と書いた
場合は、「三国志演義」を指しています。

 

「三国志」は、西暦2世紀から3世紀にか
けて、魏・呉・蜀の三国が相争う、
三国時代の歴史を描いています。

 

これを銀河英雄伝説に
(無理やりに)比定すると、

  1. 魏 = 銀河帝国
  2. 蜀(蜀漢)= 自由惑星同盟
  3. 呉 = フェザーン
  4. 曹操 = ラインハルト
  5. 諸葛亮孔明 = ヤン

ということになりますが、これは
かなりこじつけに近いものですので、
あまりお気になされぬよう。(笑)

 

とはいえ、作者の田中芳樹が熱狂的な
中国好きであることには、定評があります。

 

ですので、
三国志を頭において、銀河英雄伝説を書いた
ことは、疑う余地はないでしょうね。

 



 

銀河英雄伝説の魅力と読みどころ

それでは、銀河英雄伝説の魅力と読み
どころは、どのようなものでしょうか?

 

まずごくかいつまんだ
あらすじから紹介していきます!

 

銀河英雄伝説のあらすじ

注 このあらすじは東京創元社版によるものです。

 

銀河系史概略が序章として書かれ、
この時代の背景を説明しています。

 

銀河帝国のゴールデンバウム王朝の発足
と、ハイネッセンによる自由惑星同盟の
成立が、この銀河英雄伝説の背景となるのです。

 

銀河英雄伝説の主人公は、
ラインハルトとヤンですが、物語は
ラインハルトとその盟友キルヒアイスの艦隊
のシーンから始まります。

 

ラインハルトには敬愛する姉アンネローゼ
がいたのですが、彼女の類い希な美貌が
皇帝の目に止まり、後宮に召し出されてしまいます。

 

ラインハルトと、密かにアンネローゼを
慕うキルヒアイスは、皇帝に対する復讐
と姉の奪還を誓い、軍人の道を歩むのです。

 

そして数年、ラインハルトはその智謀と
勇気により元帥位に上り、更には早世し
た皇帝の皇太子を傀儡として、
実質的な皇帝の地位を握るようになりました。

 

しかし、その代償はあまりにも大きく、
敵対勢力の貴族が放った刺客により、
ラインハルトを身をもってかばった
キルヒアイスは倒れます。

 

一方、自由惑星同盟のヤン・ウェンリー
は、本来は歴史家志望だったにも関わら
ず、経済的理由により軍人となりました。

 

この「ヤン」は中国語では「楊」であり、
四川省に多い姓なので、
 ヤンは四川系ではないかと言われています。

 

このあたりも、
田中芳樹の中国びいきの表れでしょうね。

 

こうしてラインハルトとその好敵手ヤン
との闘いが、中盤のあちこちで繰り広げられます。

 

しかし、ラインハルトは部下の名将
ロイエンタールに命じて、同盟の首都
ハイネッセンを急襲させ、同盟軍は停戦
に応じて、銀河帝国対自由惑星同盟の闘いは、
帝国の勝利に終わりました。

 

ラインハルトは傀儡の皇帝を廃位し、
自身が皇帝に即位します。

 

しかし、この頃からラインハルトは原因
不明の高熱に悩まされるようになっていました。

 

後に「皇帝熱」と言われる、原因不明、
治療法なしの難病なのです。

 

一方ヤンは同盟の民主主義を絶やさぬた
めにラインハルトと戦いますが、
ラインハルトとの会見に赴く際、
狂信的地球教徒に襲われて落命します。

 

ヤン亡き後は養子のユリアンが闘いを引
き継ぎますが、ラインハルトとの交渉により、
一星系での共和主義者の自治を認められます。

 

そして、ラインハルトは
謎の熱病のため崩御するのです。

 

これが銀河英雄伝説のあらすじです。


 

銀河英雄伝説の魅力と読みどころ

銀河英雄伝説の魅力と読みどころとなる
と、多数ありすぎて選択に困ってしまいますね。

 

魅力のひとつは、
華麗にして饒舌な文章装飾にあります。

 

豊富な装飾に飾られた田中芳樹の文章は、
時に嫌みにもなりますが、
同時に大きな魅力でもあります。

 

例えば、部下達に呼びかける時の、
「卿(けい)らは・・・」の「卿」は、
中国での表現から取り入れたものでしょう。

 

もっともこの「卿」は、ミッターマイヤー
とロイエンタールなど、同僚の間でも
使われるので、相手の職位などに対する敬称の略とも言えますね。

 

お話の持って行き方がうまいのも、
田中小説の魅力の一つです。

 

「事なる!」とみせかけておいて、
急転直下別の展開に入るなど、
うまいものです。

 

ただし、ジョークのセンスは
あまり芳しくありません。

 

ジョークのシーンになると、
急に白々しく不自然に聞こえるなど、
あまり得意とは言えないようですね。

 

読みどころも無数にあります。

 

一つは、キルヒアイスの最後とその前後です。

 

襲撃者の意識の描写、
その後のラインハルトとアンネローゼのシーンなど、
十二分に読みごたえがあります。

 

また、ミッターマイヤーの拘束と、ロイエンタール
及びラインハルトの救助のシーンなどもよいシーンです。

 

もうひとつ、ウルリッヒ・ケスラーとの
初対面のシーンや、その後のラインハルト
と貴族のリューネブルクが対峙した時の
仲裁など、印象的ですね。

 

一体にこの銀河英雄伝説は、6年間という
比較的短い期間(この作者としては)に、
纏めて執筆しているためか、
中だるみを感じさせる所はあまりありません。

 

これはマヴァール年代記にも言えることです。

 

しかし、アルスラーン戦記のように、
30年も書いたり中断したりしていると、
最後の方では書く意欲が失われている
のが、はっきり読み取れます。

 

「もうこの辺でいいや・・・」という
ところなのでしょうね。

 

結び

今回は田中芳樹の出世作、「銀河英雄伝説」
の世界を紹介してきました。

 

銀英伝は、田中茂樹にしては6年という
短い期間に集中して書いているためか、
巨篇にしては中だるみも感じさせず、良く纏まっています。

 

あらすじをざっと書くだけでも
1000字以上も必要で、それも
省略に省略を重ねての数字なのです。

 

いかにいかに内容が充実しているかの証しでしょうね。

 

最後にひとつ。

 

銀河英雄伝説をより良く知るには、
原作の小説を読むことが、絶対に必要です。

 

アニメの銀英伝は、「アニメの銀英伝」
であって、銀河英雄伝説ではありません。

 



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「捨て子のサウルス」です。 気張らず無理せず気ままに書き散らすつもりですので、お気軽に読んでくださいね。

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